どうも、節約系ミニマリストのルパン座3です。
先日、火垂るの墓の監督で知られる高畑勲監督がお亡くなりになられました。
その追悼という事で、岡田斗司夫さんが火垂るの墓についての解説動画を
Upされました。
その動画での解説内容が目からうろこだったので、
ご紹介します。
岡田斗司夫ゼミ4月15日号「本当は10倍怖い『火垂るの墓』~アニメ界の怪物・高畑勲監督追悼特集」
1時間近い動画ですが、1時間ずっと、「へ~、ほ~」と感心させられっぱなしでした。
一番意外だった点は、
高畑監督は、戦争の悲惨さを描きたいわけでも、
お涙ちょうだいな話を書きたいわけでもなく、
人のエゴについて考えさせられる文芸作品として
火垂るの墓を作ったという点です。
鑑賞後も思い出して、
あの場面はこういうことだったのではないだろうかと
ああでもない、こうでもないと考えさせられる映画を作りたかったのです。
トトロとの同時上映という事もあり、上映当時から高畑監督のその思いは、
あまり表に積極的には出されていませんでした。
その点を非常に分かりやすく解説している動画です。
この動画を見た後で、火垂るの墓を見てみたのですが、
一切泣かずに通してみることができました。
火垂るの墓を泣かずに見たいう話を聞いたら、
「こいつ、サイコパスかよ・・・・」と思うと思いますが、
本来は、泣かずに冷静に見るべき映画なのです。
むしろ高畑監督は、映画に感情移入して泣きながらの鑑賞ではなく、
一歩ひいて冷静な目で俯瞰で見てほしいと考えていたようです。
これは高畑監督の作品すべてに言える特徴です。
母を訪ねて3千里でも、よくよく見直してみると主人公マルコの
子ども特有の身勝手なイライラするわがままさがきちんと
描かれています。
母を訪ねて3千里を思い出してみても、そのような性格の悪さ
を思い出せないのは、宮崎駿の作画のうまさで
印象を良くしているからなのです。
今回は、その一歩ひいた感覚で見ることができました。
俯瞰で見る火垂るの墓
冒頭部分
感動しないで俯瞰で火垂るの墓を見た時に、チェックしてもらいたい点を
順に説明していきます。
まず、冒頭で駅で死にかけている清太の場面ですが、
ここで、おにぎりをくれる女性がいます。
これは、戦中戦後の大変な時期が舞台ですが、
そのような時代でも親切な人は一定数いて、助けを求めれば
助けてもらえる可能性が十分にあるということを暗示しています。
つまり、清太が死につつあるのは、必ずしも時代のせいや戦争のせいではない
という事が分かります。
開始1分の冒頭にしてすでに、戦争のひどさをメインに
描いた映画ではないことが分かります。
そしてその後、清太は死に絶えるわけですが、
おにぎりはなくなっています(笑)
誰かが持って行ってしまったわけですね。
これでまた、良い人ばかりの夢物語ではない、時代の厳しさを見せつけます。
清太以外にも死にかけている子供たちがいますし。
ただの子供向けのアニメとして作るなら、わざわざそんな後味の悪いことを
する必要がありません。
後味の悪いことをちりばめてあるのが、火垂るの墓です。
天才宮崎に対する、怪物高畑の異名がよく分かります。
戦争が激化するまでの清太と節子
さて、話は母を空襲で無くし、西宮に疎開した話に飛びます。
ちなみに映画の2年前くらいがこの場面です。
もう太平洋戦争に突入している時代なのに、カルピスを飲み、
氷で冷やされた冷やしそうめんを食べています。
海軍将校の地位の父親を持つ家族なので、大変恵まれた家庭です。
そこでぬくぬくと育ったのが清太と節子です。
疎開して疎開先のおばさんと仲悪くなるまで
疎開先の娘から、節子は下駄を買ってもらいます。
それについて、清太は会釈するだけで、
きちんと声に出してありがとうとは伝えません。
ここですでに、清太のいけ好かない感じが出始めます。
同年代の子供や、疎開先の娘、下宿している青年が朝から
勤労動員に行ってタダ働きをさせられているのに、清太は家でゴロゴロしています。
せめて、おばさんの手伝いくらいすればいいのに、おばさんから嫌味を言われても、
謝りもしません。
自分たちの食器も洗いません。今まで母親が全部やってくれていたのでしょう。
ここらへんから、本格的におばさんに疎開先のおばさんに嫌われ出します。
働かない
手伝わない
愛想無い
飯だけは人一倍食べる
ニート4原則丸出しです。
疎開先のおばさんに嫌われて
戦時中というのに、陽気にオルガンを弾いて叱られます。
オルガンを弾けるというあたりもお坊ちゃん感があります。
ここでも叱られても、不満そうに目をそらすだけで謝りもしません。
まさに引きこもりニートの感じです。
空襲があれば、普通同世代の男子なら近所の人と協力して消火活動をしたり、
救助活動をするのですが、真っ先に逃げてしまいます。
本来なら海軍将校の息子ということで、率先して動くことを求められる
ところなのに、節子と自分の安全確保しか考えていません。
この場面も、わざとこの構図で高畑監督は描いています。
塩の配給も少なく、塩不足から皆は海に海水を取りに行き、
そこから塩を作っています。
そんな中二人は、節子のあせもを直すために海に来たではありますが、
ただただ海で遊んでいます。
塩水を持って帰ったり、カニを捕まえて持って帰ったりすれば、
おばさんも喜ぶでしょうに、そんなこと全く考えていません。
自分の母親の所持品だった着物を売りに出して、代わりに白米を
貰った時は、節子は落ち込んでいますが、
清太はうれしくて白米を抱きしめています。
形見より白米を優先しました。
ミニマリストの私としてはそれでも良しと思いますが、
形見まで断捨離はかなりの上級者です。
2人に厳しく接するおばさん
働かない、手伝わない、ただ遊んでいる二人におばさんは厳しく接していきます。
きちんとお国のために働いている自分の娘には具だくさんの雑炊を、
ぷらぷらしている二人には具を避けた雑炊を注ぎます。
それに気がついた娘は顔を赤らめますが、特にそのことを批判はしません。
内心、当然だと思っているわけです。
でも、そもそも配給制の時代ですから食べ物は十分にはありません。
普段の家での食事は、雑炊と漬物のみという食事をおばさんたちもしています。
とくにおばさんは、お国のために働いている娘と下宿人の雑炊は具だくさんにしていますが、自分の雑炊の具はその半分くらいです。
娘&下宿人>おばさん>節子&清太の順なのです。
娘&下宿人の勤務先で食べるお弁当には白米のお弁当を持たせます。
自分は家では昼食にも雑炊を食べていると思われます。
ココから見てわかるように、決しておばさんはいじわるな人というわけではなく、
働かざる者食うべからずを実践しているだけなのです。
疎開先を飛び出す2人
そのような言動に反抗して、謝りもせず二人は家を飛び出ます。
それがなぜできたかというと、母親が銀行に7000円貯金してくれていたからです。
今のお金にして1300万円にもなるという金額ですが、終戦間際なので、
ハイパーインフレ状態でしょうから、価値として
50万円くらいにしかならないかもしれません。
でも、そのお金をおばさんにわたして、うまく食料などと代えてもらって、
節制していけば数か月生活できる価値はあったはずです。
それなのに、その当時物資不足からめったに手の入らなかった土鍋や
七輪などを買い集めることで、4000円使ってしまいます。
そして白米のご飯を炊いて、食べてしまいます。
おなかを壊していて、栄養失調気味だった節子のことを考えれば、
栄養豊富な玄米に野菜を入れて、雑炊にして食べることが栄養&節約から
考えてベストでした。それが坊ちゃん育ちの清太にはわかりません。
楽しく二人でキャンプ生活
しばらくは、ノンストレスで楽しく二人で生活をします。
その一場面で蛍をたくさん捕まえて、蚊帳の中にはなす場面があります。
有名なシーンです。
そのきれいな情景を見ながら眠りにつきます。
蛍の寿命は成虫になってから数日です。
翌朝、蛍が死にまくっています。
それをお墓に埋めてあげます。
火垂るの墓です。
この時に、疎開先のおばさんからおかあさんが死んだことを聞かされていたことを
清太に伝えます。清太は節子にはお母さんは入院していると伝えていました。
おばさんの家にいた時に、夜中節子が「おかあさん~」と泣き出す場面がありますが、
それはおばさんから母親の死を聞いたからなのでしょう。
母親の死、蛍の死をだぶらせて命のはかなさと、蛍からしたら清太と節子も
ひどい存在であったことを暗示します。
ただの子供向けアニメなら、蛍キレイ~だけで終わるところです。
宮崎駿ならそうするでしょう。でも怪物高畑はそんなきれいごとを許しません。
上手くいかなくなる二人の生活
体調崩した節子のために、清太は野菜泥棒を繰り返すようになるのですが、
その現場を見つけた畑の持ち主は、
清太を過剰なくらいにぼこぼこにします。
「妹が病気なんです、かんにんしてください」と言っても、容赦無しです。
この場面もいろいろ考えさせられますよね。
清太は節子の病気を理由に自己正当化していますが、
野菜くださいと頼みには行っていないのです。
それが煩わしいから盗んだのです。頼めば野菜のクズくらいはもらえたはずです。
世渡りが下手な腐れ隠キャ丸出しです。
ゲスの極み清太
そして、今後は盗みはしないと誓うかと思いきや、
空襲で皆が逃げていく方向と逆方向に走っていく清太
いったい何をする気でしょうか?
火事場泥棒です!
売れそうな着物をバッグと服の下に詰め込んでパクって行きます。
そして、焼夷弾の雨を降らしてゆくアメリカのB29に対して、
「いいぞ、もっとやれ!」という鬼畜発言(笑)
自分たちを苦しめるこの地域、大人たちへの逆恨み&
盗みの絶好のチャンスをくれてありがとう~ってなもんです。
そして、この高笑い!
大泥棒です。
節子の体調悪化
清太がそのような事を繰り返していくうちに、
節子の体調はドンドン悪くなります。病院に行っても栄養失調としか言われませんが、
冒頭で2回、最初の空襲の時に目に何か入ったことを言っているので、
悪い化学物質が入っていたのかもしれません。
病院帰りに、大きな屋敷に氷を運ぶ業者に遭遇します。
戦時中でも金があるところにはあり、今までと変わらないぜいたくな生活を
していることを示しています。
もしかしたら、この家に、タダ働きでも何でもしますので助けてくださいと
泣いて頼めば節子を助けられたかもしれません。
もちろん、清太はそんなことしません。
いよいよ節子が弱ってきたので、清太は残りの貯金もすべて下ろして
栄養の付く食べ物を買ってきます。
金あったんかい!泥棒する前に、さっさとおろして来いよw
2人の最後の晩餐と高畑監督のいじわる
節子にスイカを少し食べさせて、「残りのスイカここにおいておくから食べてな」
と伝えて、鶏肉と卵の雑炊を清太は作ります。
その雑炊を並べて、食べようとするころには節子は死んでしまいます。
一番の感動のピークですよね。
清太はその晩、死んだ節子を抱いたまま寝ます。
その後、怪物高畑の演出の怖さが光ります。それがこの場面です。
鍋いっぱいの雑炊を一晩で、清太が全部食べきっている・・・・
死んだ節子を抱きながら、清太は鍋いっぱいの雑炊を一人で食べたのです。
妹が死のうが腹は減る。
そして、その横の箱は母親の遺骨の入っている箱です。
この画面に、死と生が同時に表現されているのです。
この瞬間は、時間にしてわずか1秒です。気がつかんわw
いやいや、雑炊を食べている場面は無いから、もしかしたら、
清太妹に食べさせられなかった雑炊を捨てたのかもしれない。
そう思った人にとどめを刺す場面がその直後にあります。
スイカ一個丸々一人で一晩で食べてる~
さっきの雑炊は少し見えにくい配置で描かれましたが、
このスイカはアップで写されます。
すげえな~高畑監督。容赦ない。
感動してんじゃない、冷静に見てみろ、これが人の性だと言わんばかりです。
高畑監督の悪い癖は、このように分かりにくい暗示を
ところどころにちりばめておいて、
何で気がつかないないんだ!と嘆くところです。
もう少しわかりやすくしてもらわないと難しいっす!
節子が死んで
その後の清太は終始無表情のまま、炭を買ってきて
淡々と涙を流すことなく節子を火葬します。
普通に考えれば、悲しみをこらえているとも考えられますが、
この無表情のまま、死体の節子の横で鍋いっぱいの雑炊と
スイカ1個を食べた清太の感情をどうとらえるべきでしょうか?
単純な悲しみではないでしょう。
後悔もあるでしょうし、ほっとした安堵の気持ちもあるかもしれないし、
もうどうでもいいやという無気力なのかもしれない。
現代文の問題でこの時の清太の気持ちとしてあてはまるものを答えよ
というものが出たらお手上げです。
そのような清太たちのいる池の上のほうにある大きな屋敷では、
疎開先から帰ってきた金持ちの娘たちが、アメリカのレコードを蓄音機
から流しながら、「やっぱり自宅はいいわね~」と話しています。
明らかに、悲しみに浸らせる気が無い演出です。
悲しませるなら、いらない演出です。
泣くな、冷静に考えよ!と高畑監督はくぎを刺すわけです。
ラストシーン
そして、最後は現在の神戸の街を見ている清太と節子の姿で終わります。
清太と節子は成仏できていないのです。
普通のアニメなら、清太が死んだときに父親と母親も迎えに来て、
家族4人天国に行くという感じになるはずです。
それを許さないのが高畑監督。
清太の気持ちひとつで救えたはずの節子への贖罪からなのか
成仏できずに彷徨う清太。
カトリックでは、天国にも地獄にも行けなかった人が罪の浄化を終えるまでいる場所を
煉獄(れんごく)と呼びます。
清太は自分の気持ちひとつで節子を救えたであろう過去の状況を、
何度も繰り返し見せられるという罰を受けているのかもしれません。
そして、そこに天国へ行っていたはずの節子も煉獄へ引きずり込んで留めているの
かもしれません。
そう考えると救いの無い、怖いお話です。
冷静に見ていくと、清太が悪い!という事になるのですが、
でもだれしも清太的な要素はあります。
だれしも善人ではない。清太だけを責められない。
清太たちに冷たくした疎開先のおばさんだって責められない。
そのような意味で火垂るの墓の清太は私自身であるのです。
能力もないくせに、プライドだけ高い、
コミュ症の若者がどのような末路をたどるのかを、
バブル期の当時にもうすでに予見していたのですね。
ん~怪物・高畑勲おそるべし!
他のシリーズも見直してみよう~っと
2018/04/21記事作成
2019/06/01記事修正